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下岡凪子

現代銭湯:
​社会的つながりと
帰属意識の再構築

はじめに

 家庭風呂の普及に伴い、かつて社交の場として機能していた日本の伝統的な公衆浴場「銭湯」は、東京をはじめ全国各地でその数を大幅に減らしている。銭湯の衰退は、現代日本社会における社会的つながりや帰属意識の希薄化と並行して進んでおり、その背景には、家族形成の減少、雇用の不安定化、職場文化の変容、そしてとりわけ新型コロナウイルス感染症によって深刻化した社会的孤立がある。こうした時代に銭湯が衰退していることは、人々が相互に交流し、支え合うための大切な空間が社会から失われつつあるという、より広範な社会的課題を浮き彫りにしている。

 本研究では、入浴サービスに加えて新たな価値を提供する現代の銭湯が、家庭や職場といった従来の社会的枠組みを超え、人々のつながりや帰属意識を育む代替的な社会空間としてどのように機能し得るのかを検討する。東京都内に位置する三つの銭湯および関連施設──狛江市の「狛江湯」、墨田区の「電気湯」、杉並区の「小杉湯となり」──を対象としたケーススタディを行い、フィールドワークを通じて、現代の銭湯がどのように入浴施設としての役割を再定義しつつ、変化する社会環境に適応し、多様な社会的空間を創出しているのかを明らかにする。

 その結果、銭湯としての社会的機能が再構築された現在においても、これらの銭湯が依然として人々のあいだに意義あるつながりと帰属意識を生み出し続けていることが示された。

執筆の背景

 この論文を執筆した背景には、私の「人好き」というところがあります。社会にはいろんな人がいて、それぞれに固有のライフストーリーがある。ある人がどんなふうに生きてきたのか、どんな考えを持っていて、それが日々の暮らしや仕事の中にどう表れているのか――そんな人の物語を知ることが、私にはとっても面白いのです。

 また、ふらっと出かけた先で思いがけず出会った人と交流が生まれたり、その出会いをきっかけに今まで知らなかった世界を覗けたりする瞬間も、とても好きです。自分の知らない世界がふっと目の前に開けるあの感じに、いつも心を惹かれます。 そうした「人が好き」「交流が好き」という自分の思いを、研究というかたちで表したのが、この論文です。

 

 他人とのつながり方は人によって異なります。積極的に多くの人と関わりたい人もいれば、そこまで強くは望まない人もいる。また、今日は人と一緒に過ごしたいけれど、明日は一人でいたいというように、その度合いは日によっても変化します。さらに、直接的な交流は望まなくても、他者の存在が感じられる場に身を置くことで、ゆるやかにつながっている感覚を求める人もいるでしょう。

 大切なのは、ふと「誰かと関わりたい」「自分の居場所が欲しい」と思ったときに、それを受け止めてくれる環境があることだと思います。現代社会では人と直接関われる機会が減りつつありますが、銭湯はまさにそうした環境をゆるやかな形で提供しうる場であると私は考えます。

 本論文では、帰属意識を育み、人それぞれの形で他人とつながれる空間を提供する三つの銭湯・銭湯関連施設に注目しました。狛江湯の西川隆一さん、電気湯の大久保勝仁さん、そして小杉湯となりの白井杏実さんから伺ったお話や考えは、私にとって多くの新しい発見をもたらし、非常に刺激的で面白いものでした。

 本研究をご指導くださったJames Farrer教授およびDavid Slater教授に、心より感謝申し上げます。また、研究にご協力いただいた西川隆一さん、大久保勝仁さん、白井杏実さん、そして加藤優一さんにも深く御礼申し上げます。 この研究を通して、人とつながれる三つの環境の存在が、より多くの方に伝わることを願っています。ぜひお読みいただければ幸いです。

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Tokyo Sento 東京銭湯

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