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 家族や職場といった従来の社会的枠組みが衰退し、社会的つながりや帰属意識が希薄になりつつあるなかで、本研究の主な目的は、現代の銭湯空間がそうした従来の社会的枠組みを超えて、個人に新たなつながりや帰属意識を見出すための代替的な場をどのように提供しているのかを明らかにすることであった。

 本研究ではフィールドワークを採用し、東京に所在する三つの銭湯および関連施設––狛江湯、電気湯、小杉湯となり––において、対面インタビューと参与観察を実施した。これら三つのケーススタディは、銭湯業界が顧客層の減少や文化的規範の変化といった課題に直面している一方で、現代日本社会における将来性を示している。さらに、これらの事例からは、現代の銭湯が社会の変化を反映しながら、つながりや帰属意識に対する現代人のニーズに応えるかたちで進化している様子がうかがえる。各施設は、独自の取り組みや、従来の入浴サービスを超えた付加価値の提供を通じて、社会的空間の創出に貢献していると言える。

 第一の事例である狛江湯は、伝統的な入浴施設から「街のメディア」へと変革を遂げ、若者や地域外の訪問者を含む多様な顧客層を惹きつける、進歩的なアプローチを採用している。この事例は、現代の銭湯が社会的ニーズの変化に応じて進化し、地域コミュニティのインフラや交流の場にとどまらず、地域外の人々をも引き寄せながら、新たな社会的交流のかたちを生み出していることを示す印象的な例である。

 再構築された銭湯空間において、オーナーである西川氏は、従来の銭湯が社交性を重視してきたことに対し、他者の存在を感じながらも、個々の顧客がひとりの時間を楽しむことができる空間を構想している。特に、併設されているカフェ/バー「SIDE STAND」にそのビジョンが色濃く反映されている。顧客がどの程度社会的つながりを感じているかは一概には言えないものの、フィールドワーク調査を通じて、物理的な空間レイアウトやそこで生まれる雰囲気が、ひとりでいながら他者とのつながりを感じる感覚を高める可能性が示唆された。西川氏のアイデアは、物理的に近くにいる人々が互いの存在を意識しつつ、直接的な交流を伴わずにつながりを感じる人間関係の形態を育む、「共存」や「一緒にいる孤独」といった理論的枠組み(Zhao & Elesh, 2008, p. 578)に関連している。

 個々の顧客にひとりの空間を提供する一方で、狛江湯は家族や友人といったグループ客にも支持されており、共同入浴の体験を通じて社会的関係性を深める場ともなっている。さらに、大幅な改装を経た後も、地域の高齢常連客にとっては引き続き社交の場としての機能を果たしている。銭湯環境の向上を目指した取り組みや、排他性を生み出す行動に対する適切な対応を通じて、顧客が快適さや尊重を感じられる空間が形成されている。こうした環境のもとで、多様な顧客がひとりの時間を楽しみながら社会的つながりを感じたり、仲間との関係を育んだりすることが可能となっている。

 第二の事例である電気湯は、狛江湯とは対照的に銭湯の伝統に深く根ざした地域のつながりを一貫して維持しており、京島地域のコミュニティセンターとして、地域社会のコミュニティライフの活力と健康に貢献している。この環境の中で、大久保氏は顧客にとっての居場所づくりを目指しており、そのビジョンの中核には、社会的交流を通じて心の回復を体験できる空間の創出が据えられている。

 社会的交流を促進するさまざまな取り組みを通じて、電気湯は地域の高齢常連客にとって重要な地域ハブとして機能し続けており、彼らのつながりや社会的関係性の強化に貢献している。さらに、こうした常連客は銭湯の維持に対する共同的な責任感を有しており、これは電気湯への深い愛着と帰属意識の表れと言える。

 そして、電気湯は現代の管理化され効率性が重視される社会(北村, 2024)において、偶発的な交流に日常的に慣れていない若年層に対し、世代を超えた価値ある交流の機会を提供している。高齢の常連客は、若年層に対してコミュニケーション文化を伝える役割を果たし、若者が親しい関係性の枠を越えて社会的つながりを築くことを促すとともに、彼らのコミュニケーション能力の向上にも寄与している。このように、電気湯は変化する社会的状況に適応しながら、世代間のつながりを強化し、現代社会において希薄になりつつある世代間交流を支える新たな社交のかたちを提供していると言える。

 第三の事例である小杉湯となりは、他の現代の銭湯施設には見られない独自の取り組みを展開しており、銭湯での体験そのものではなく、銭湯を中心としたライフスタイルに焦点を当てた革新的なアプローチを提供している。この空間は、会員の多様なライフスタイルや嗜好に合わせたシェアスペースとして機能しており、仕事後に社交を楽しむ人、一人でリラックスしたい人、あるいはリモートワークの場として利用する人など、さまざまな用途で活用されている。

 店長である白井氏のビジョンの中核には、柔軟な社会的空間の創出があり、会員が他者との関わり方を自由に選びながら、空間に対する親しみを感じ、社会的交流を築けるよう工夫されている。気軽な交流からひとりの時間を楽しむことまで、それぞれのスタイルに応じて過ごせる「居場所」、「もう一つの帰る場所」として心地よい環境を育むことが、白井氏の目指すところである。

 まず最低限の基盤として、スタッフによる自己紹介やインフォーマルな挨拶といった、シンプルでありながらも熟考された取り組みが行われており、会員同士が「顔見知りのネットワーク」を空間内で築きやすい環境が整えられている。これにより、新規の会員も安心して再訪しやすい雰囲気が醸成されている。

 さらに、小杉湯となりの会員は、さまざまな交流の機会を通じて積極的に他者との関わりを築いている。たとえば、食べ物のシェアや会員主催のイベントは、年齢や職業を超えた交流を促進し、会員同士のつながりを育む重要な契機となっている。加えて、スタッフもこうした交流の形成に積極的に関わり、つながりが会員主導のみに依存しないよう働きかけている。

 また、「コミュニケーション選択性」という考え方は、社会的交流における柔軟性を支える重要な要素である。1階は交流が活発に生まれる空間、2階はひとりで過ごせる空間、3階はプライベートな時間を確保できる空間として設計されており、会員はその時々の気分やニーズに応じて、社会参加の度合いを自在に調整できる。

 このように、親しみやすい雰囲気、豊富な交流機会、そしてコミュニケーション選択性という要素が相互に作用し、会員が自分にとって快適で居心地の良い「もう一つの帰る場所」としての居場所を見つけることを可能にしている。これらの要素は、会員の帰属意識の向上にも貢献していると考えられる。

 最後に、小杉湯となりのオーナーである加藤氏は、このシェアスペースを「次世代サードプレース」と位置づけている(野村, 2023)。となりは、家庭と職場の間にあるインフォーマルな公共空間として、会員がメンバーシップ制度を通じて定期的かつ自発的に訪れ、つながりや帰属意識を育むことができる場を提供しており、広義においてはOldenburg(1989)が提唱するサードプレースの概念と一致している。しかし、となりは会話を空間の中核的要素とはしておらず、この点において従来のサードプレースの定義を超えている。こうした特徴が、加藤氏がとなりを「次世代サードプレース」と位置づける理由である。また、「コミュニケーション選択性」を通じて、となりはサードプレースの概念を拡張し、より柔軟な社会的交流のあり方を取り入れている。このように、柔軟性を備えた社会空間の創出は、現代日本におけるつながりに対する人々の進化するニーズを反映していると考えられる。すなわち、現代のインフォーマルな公共生活に求められているのは、Oldenburg(1989)が提示した従来型の強固な地域コミュニティを基盤としたつながりではなく、社交とひとりのバランスを尊重した社会的関係である。この新しいかたちの社会的関係が求められる現代において、となりの革新的なアプローチは、こうした社会的変化に対応する実践例として位置付けられる。

 したがって、狛江湯、電気湯、小杉湯となりの三つの銭湯および銭湯関連施設は、それぞれ独自のアプローチで、変化する社会や個人のニーズに応じた多様な社会的空間を創出している。各施設は異なる方向性や空間の雰囲気を持つものの、いずれも共通して現代日本における「つながり」と「帰属意識」へのニーズに応えようとしている。銭湯の社会的機能が再構築されつつある現状においても、これらの施設は時代の変化に適応し続け、人々が求めるかたちでの新たなつながりや帰属意識を提供していることが、本研究を通じて示唆された。

研究上の限界 および今後の課題

 本研究には主に三つの限界が存在し、ここでは今後の研究における課題を提示する。

 第一に、本研究の根本的な限界として、銭湯における女性の事例にのみ焦点を当てた点が挙げられる。男性風呂における社会的ダイナミズムは、女性風呂とは異なる可能性があり、今後の研究では男性の視点から銭湯環境を検討することが、より包括的な理解につながると考えられる。

 第二に、従来の入浴サービスを超えた付加価値を提供する新たな銭湯のあり方、とりわけ、そうした施設が従来の社交空間としての役割をどのように保持し、あるいはどのように新たな社会的空間を創出しているのかに関する研究は、依然として十分に進んでいない。本研究は三つの事例に基づき有益な知見を提供したものの、より多様な銭湯を対象とした調査が求められ、現代の銭湯環境を包括的に理解するためにはさらなる実証的研究が必要である。

 第三に、小杉湯となりの事例が示したように、現代日本社会におけるインフォーマルな公共空間では、人々は伝統的なコミュニティや強固な社会的結びつきではなく、社会的交流とひとりの時間を柔軟に行き来できる環境を求めていることが確認された。このような、より流動的でゆるやかなつながりへの欲求に対し、他の公共空間がどのように応答しているのかを検討すること、さらに、こうした社会的環境が個人の幸福や健康にどのような影響を与えているのかを明らかにすることは、今後の重要な研究課題となるだろう。

 これらの限界に取り組むことで、現代の銭湯が個人のつながりや帰属意識を促進する上で果たす役割について、より精緻で多面的な理解が得られることが期待される。

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