top of page

 小杉湯となりは、一つのシェアスペースという空間を通じて、会員それぞれのライフスタイルや好みに応じた利用を可能にしている。仕事帰りに他の会員との食事を楽しみに訪れる人もいれば、ひとりでくつろぐことを目的に立ち寄る人、ほぼ毎日リモートワークの場として活用する人もいる。この空間の中心にあるは、親しみやすさや社会的な交流を促進しつつ、会員自身が社会との関わり方を自由に選べるような環境を提供することである。カジュアルな交流からひとりで静かに過ごす時間まで、多様な過ごし方を受け入れるこの柔軟な社会的空間は、快適でウェルカムな雰囲気を生み出し、「もう一つの帰る場所」としての居場所の機能を果たそうとしている。

7.1 「もう一つの帰る場所」としての居場所

 「こんなにいろんな年齢の人たちが同じ場所にゆるくつながってる場所ってあんまりないと思う。」––小杉湯となり(以下、となり)の店長である白井杏実氏は、インタビューの中で、となりにおける社会的な動態についてこのように語った(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。となりの会員には、学生、会社員、教師、音楽アーティスト、子育て中の親など、さまざまな職業の人々がいる。年齢層も20代から60代までと幅広く、多様なバックグラウンドを持つ人々がこの空間を共有している。白井氏は、となりを通じて、会員にとって自宅とは異なる「もう一つの帰る場所」のような居場所を提供することを目指している。

「今って一人暮らしとか、家族がいたとしても会社行って、帰って...。一人暮らしだったら、もうその家を片付けてお皿洗って寝るみたいな、そういう生活だと思うんですけど、なんかもう一つここに立ち寄れば、顔を知ってる誰かがいて、ちょっと声をかけたり、おしゃべりできたり…。完全に会社行っておうち帰って寝るみたいな生活にちょっとケの日のハレみたいなんですけど、普通の日のちょっとした嬉しい出来事みたいな。」

「本当ふとした会話から、イベントの企画も発生する。『今度こういうのをやりたいんだよね』とか、『こういうのを作りたいんだよね』っていう話の中から、『じゃあ今度みんなでやろうよ』とか、『自分こういう仕事してるから協力できるかも』みたいな…。」

「だけど、そういうのが心地よい距離感で作れる。そういう中で、となりをもう一つの帰る場所、自分の居場所が増えたみたいな、ケの日のハレの機会が増えるみたいな感じで使ってもらえたらいいなって思ってます」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 上記の発言が示すように、白井氏は、会員が安心して帰ってこられる居場所を育むことを目指している。それは、自宅とは異なる「もう一つの帰る場所」として、心地よく、歓迎されるような空間である。このような環境を実現するために、白井氏は、会員同士やスタッフとの間に「顔見知り」のネットワークを広げるとともに、シェアスペース内で自然な社会的交流が促されつつも、互いに適度なパーソナルスペースが保たれるような場の構築を構想している。

 

 「もう一つの帰る場所」としての居場所を成立させるための鍵となるのは、(1)会員同士やスタッフとの間に親しみやすさを生み出すこと、(2)交流の機会を提供すること、そして(3)個々のパーソナルスペースを尊重することである。フィールドワークを通じて、こうした親しみやすさを育み、社会的交流を促進し、互いの距離感のバランスを保つために、いくつかの具体的な取り組みが行われていることが明らかになった。以下では、これら三つの要素が、となりという空間の中でどのように実践されているのか、そして白井氏が目指す、「また帰りたくなるような居心地のよい環境」がいかにして形づくられているのかを考察する。

7.2 自己紹介と挨拶

 最も基礎的な段階として、会員同士やスタッフが互いに知り合い、「顔見知り」のネットワークをシェアスペース内に形成していくために、スタッフによる自己紹介が重視されている。となりでは、スタッフが新たに会員と出会う際には、まず自己紹介を行うことが基本である。白井氏はこの点について、次のように述べている。

「名前を知らない誰かと話すのって、多分すごく緊張すると思うんです。まずスタッフから自己紹介をして、『あ、一回話した人がいる』って、また来たときに思えるようにするんですね。そこで、話しやすい人がいれば、すごく安心感が生まれると思います」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 自己紹介はアイスブレイクとして機能し、会員がとなりの中で知り合いをつくるきっかけとなる。この一見ささやかな取り組みが、会員に安心感をもたらし、空間への親しみを育むとともに、再訪時の心地よさを高めるうえで重要な役割を果たしている。

 さらに、会員とスタッフの自己紹介が他の会員の近くで行われる場合、スタッフがその場にいる会員同士を紹介し合うことで、つながりが一層促進されていることに筆者はフィールドワークを通じて気づいた。また、スタッフが新たに加わった会員を、シェアスペース内にいる複数の会員にまとめて紹介する場面も見られた。こうした取り組みによって、会員が知り合いをつくる機会が生み出されている。

 たとえば、ある場面では、スタッフの一人が筆者に自己紹介をした後、近くにいた別の会員を紹介してくれた。その後、筆者とその会員のあいだで、職業や会員歴などに関する簡単な会話が自然に交わされた。このような自己紹介のプロセスを通じて、空間内には顔見知りのネットワークが広がるだけでなく、会員はスタッフや他の会員から歓迎されることで、自身がこの空間に受け入れられているという感覚を持つようになる。その結果、空間における快適さやつながりの感覚がいっそう強まっていく。自己紹介は、会員同士やスタッフが知り合うための大切な出発点であり、会員が「またここに来たい」と感じる居心地の良さを生み出すと同時に、さらなる社会的つながりの広がりを促す役割を果たしていると言える。

 自己紹介に加え、親しみやすさや居心地の良さは、スタッフの挨拶の仕方からも育まれている。となりでは、形式的な「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」といった言葉の代わりに、「こんにちは」や「こんばんは」といったカジュアルな挨拶が交わされている。さらに、会員が外出するときには「いってらっしゃい」、戻ってきた際には「おかえりなさい」、夜に帰るときには「おやすみなさい」といった、まるで身内にかけるような親しげな言葉が使われている。

こうしたやりとりは、会員とスタッフの間に自然な親密さを生み出している。形式的な挨拶を避けることで、よりリラックスしたインフォーマルな雰囲気が醸成され、関係性は顔見知り同士のように近く温かいものへと変わっていく。

7.3 交流の機会

  自己紹介を通じて初対面のきっかけがつくられ、基本的な居心地の良さが育まれるだけでなく、身内同士のような挨拶を重ねることにより、会員とスタッフの関係はよりリラックスした自然なものへと深まっていく。

 さらに、となりでは、食べ物のシェアや大きなダイニングテーブルの存在、会員主催のイベントなどを通じて、さまざまな社会的交流の機会が生み出されている。こうした交流をきっかけに、会員同士やスタッフとのあいだにさらなる親しみやすさが育まれ、社会的な関係が自然と深まっていくことが確認された。

食べ物

 となりには、会員同士が食べ物をシェアしやすく、かつそれが歓迎される雰囲気がある。たとえば、1階のキッチンカウンターは、会員が食べ物のお裾分けを置く場所として機能している(図33・34参照)。フィールドワークを通じて、食べ物が会話や交流のきっかけとなり、それを促進する効果的な媒介として作用していることが観察された。以下のシナリオでは、お裾分けがいかにして社会的交流を生み出すのかが具体的に示されている(シナリオ#10参照)。

シナリオ#10:となりのキッチンカウンターにて

ある会員が、キッチンカウンターに並ぶ他の会員からのお土産を眺めていた。すると、カウンターの奥にいたスタッフが「会員のAさん、Bさん、Cさんからいただいたお土産です。よかったら、ご自由に召し上がってください」と声をかけた。これに対し、会員は微笑みながら「え〜!美味しそうですね」と応じた。その際、近くにいた別の会員が興味を示し、「へ〜、これ何ですか?」と尋ねたことをきっかけに、二人の会員は自然に会話を始めた。二人はお土産を味わいながら「美味しいですね」と感想を交わし、そこからお土産の生産地や、互いにその地域を訪れたことがあるかどうかなど、話題が次第に広がっていった。短い交流を終えた後、二人はそれぞれ自分の席へ戻っていった。

このように、お菓子をシェアする場面を通して、会員間に楽しげな会話と自然な交流が生まれる様子が観察された。

図33:会員によってシェアされたお土産が並ぶ

キッチンカウンター

food souvenir.png

図34:キッチンカウンターのお裾分け

時には、提供者や購入場所を示すメモが添えられることがある。

food souvenir #2.jpg

キッチンカウンター上でのお裾分けの共有という習慣を越え、会員は時折、他の会員と直接お裾分けを分け合うこともある(シナリオ#11参照)。

シナリオ#11:となりの1階にて

ある日、女性会員(会員A)が来店し、キッチンカウンターのスタッフに向かって「久しぶり〜!大阪のお土産でリクローおじさんのチーズケーキ買ってきたよ」と声をかけた。これに対して、スタッフは「ええ〜、リクローおじさん!」と応じた。

その様子に気付いた他の会員たちも興奮しながら「わあ、リクローおじさんだ〜!」「これ、有名なやつだ!」と口々に話し、4、5人の会員がキッチンカウンターに集まった。会員Aが「温めるとさらに美味しいらしいよ」と話すと、スタッフは「じゃあ、温めて切ろう」と応じた。すると、会員Bが「多分、食べる分だけ温めた方がいいんじゃないかな」と提案し、スタッフと会員Aは「確かに、賢い!」「でも結局、全部温めることになりそうだね(笑)」と返した。

その後、チーズケーキは切り分けられ、集まった会員たちと分け合って食べることとなった。会員たちは「おいしい!すごい軽い!」と感想を述べながら、和やかに会話を楽しんでいた。

このとき、スタッフは少し離れた場所に座っていた私にも「あと一切れあるんですけど、いかがですか?」と声をかけてくれた。さらに、たまたま2階から降りてきた別の会員にもケーキを勧め、人数が増えるにつれて会話はさらに広がっていった。

私は大きなダイニングテーブルに移動し、他の会員たちとともにケーキを食べながら会話に加わった。右斜め前に座っていた女性会員(会員C)が「お名前は何ですか?」と声をかけてくれたことをきっかけに、互いに自己紹介を行い、その後、となりの利用頻度、会員歴、職業、大学での専攻など、さまざまな話題で会話が展開された。

最終的に、約6人の会員がダイニングテーブルやキッチンカウンター周辺に集い、ケーキを楽しみながら談笑した。しばらく交流を続けた後、会員たちはそれぞれの活動に戻っていった。

 これら二つのシナリオが示すように、フィールドワーク中には、会員同士やスタッフのあいだで、お裾分けをきっかけに会話が始まる場面がしばしば観察された。たとえば、キッチンカウンター越しにお裾分けをシェアすることもあれば、会員がその場に居合わせた他の会員に直接食べ物を分け合う場面もあった。いずれの場合も、このような食べ物をシェアする文化は、会話のきっかけとなり、新たな出会いを生み出し、交流を促進するとともに、会員同士の社会的関係性を強める役割を果たしていると言える。

 また、シナリオ#11が示すように、会員がまずスタッフとお裾分けを共有し、その後スタッフがそれを空間内の他の会員に渡すという場面もあった。このようなスタッフの働きかけにより、すでに面識のある関係にとどまらず、より多くの会員が会話に加わることができ、広がりのある交流が促進されていた。さらに、お裾分けの場面として、1階のキッチンで料理をした会員が、多めに作った料理をスタッフや他の会員とシェアしたり、キッチンカウンターに置いて他の人たちが自由に楽しめるように残しておく様子もよく見られた。これらの行為もまた、他のお裾分けのやり取りと同様に、会員とスタッフ、あるいは会員同士の交流や会話のきっかけとなり、となり内でのつながりをさらに深める役割を果たしていた。

 

 これらのシナリオが示しているのは、食べ物が会話のきっかけとして非常に効果的であり、何よりも誰もが共感しやすい媒体として機能するという点である。このような食べ物を通じた交流は、世代を超えた会員同士のあいだにも見られた。共通の媒体が提供されることにより、さまざまな会員が自然に繋がり、交流が生まれやすくなるのである。さらに、会員が他者とお土産や食べ物を共有する過程で、そこに友情が育まれ、それが互いの社会的関係を一層強めることにもつながる。

 お土産や食事の共有は、しばしば偶発的に生じるものであるが、となりでは定期的に提供するごはんを通じて、社会的交流が積極的に促進されている様子も観察された。ごはんの提供は週に三回、スタッフによって準備される。具体的には、火曜日と金曜日の昼ごはん、そして水曜日の夜ごはんである(図35・36・37参照)。

フィールドワーク中、スタッフがキッチンで食事を準備していると、その美味しそうな香りが空間内に広がり、二階にまで届くことがあった。すると、一階の会員たちが時折キッチンに近づき、「いい匂いですね、何を作っているんですか?」と声をかける場面が見られた。時には、二階から会員が降りてきて、このような会話が生まれることもあった。白井氏は、同じ食事を共有することが、会員同士のつながりを促進するうえで重要な役割を果たしていると述べている。

「食べ物、同じ釜の飯を食うっていうのはすごく人と人が繋がりやすいとは思ってて。『おな釜』って言ってるんですけど、同じ釜の下に入って同じ釜の飯を食べる、仲間みたいな(笑)やっぱり何かご飯食べてる時って自然と会話が生まれますよね」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

図35:店長・白井杏実さんによって提供された、

とある水曜日の夜ご飯#1

「あんみちゃんの中華丼」

dinner#1.jpg

図36:店長・白井杏実さんによって提供された、

とある水曜日の夜ご飯#2

「冬のぽかぽかカレー」

dinner#2.jpg

図37:昼ごはんや夜ごはんを希望する会員は、

キッチンカウンターに置かれたホワイトボードに

自分の名前を書く。

whiteboard.jpg

図38:1階には大きなダイニングテーブルが設置されており、

その奥にキッチンが配置されている。

daning table.jpg

 食事中には、同じ空間でともに食事をしている会員同士のあいだで、自然と会話が生まれていた。ここで重要なのは、同じ料理を共有することだけでなく、同じ経験や空間を共有することである。Lebra(1976)は、親密な関係とは、一体感やワンネス(oneness)、連帯感の表現および確認によって特徴づけられると述べている(p.115)。

 となりの場合、1階に設置された大きなダイニングテーブルが、会員たちがそれぞれ独立して座るのではなく、一緒に座って食事をとることを可能にしている。このような物理的な近接性や共食の経験を通じて、「私たち」という感覚が育まれる(図38参照)。同じ環境で食事を共にすることで、一体感や連帯感が促進され、感情的なつながりが深まり、結果として社会的な交流も活性化していくと考えられる。

大きなダイニングテーブル

 この文脈において、1階の大きなダイニングテーブルは、社会的交流の中核として機能していることが示唆される。キッチンの前、1階の中央に配置されたこのテーブルは、複数人が一緒に座ることができ、グループでのアクティビティや経験の共有を可能にする。それによって、一体感や連帯感が自然と育まれていくのである。

「何かそれぞれの時間が流れる時もあれば、ここでご飯をみんなで食べてたりとかすると会話が自然に生まれていて、ここでコミュニケーションがよく生まれてるなと思います。あとはここでみんなでアプリ作ってたりとか、ここを囲んでみんなで何かやるにもすごいこのテーブルは使われてるなって」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 このダイニングテーブルは、会員が食事を共にする場を提供するだけでなく、グループでの会話やアクティビティの場としても機能している。たとえば、水曜日の夕食時に、ある会員たちは著者に対して、週に何度か他の会員とともにこのテーブルで将棋や碁などのゲームを楽しんでいることを教えてくれた。別の機会には、著者自身も三人の男性会員とカードゲームを行い、このテーブルを囲んで会話を交わしながら、彼らとの関係を深めることができた(図39参照)。また、このテーブルを用いたグループでの会話も頻繁に観察された。こうした要素を通じて、大きなダイニングテーブルは物理的な近接性や共有体験を促進し、一体感(Lebra, 1976, p.115)を育むとともに、会員同士の社会的な結びつきを強める重要な役割を果たしている。

図39:夕食後、ダイニングテーブルにて、

会員の友人が開発したカードゲームをプレイする様子

card game.jpg

イベント

 となりで提供されるもう一つの重要な社会的交流の機会は、会員自身が企画するイベントである。会員は、1階に設置された掲示板を活用し、自ら企画したイベントに関する情報を掲示することができる。これらのイベントは多様で、ワイン会、ハイキング、チーズフォンデュ会、グループランニング、劇場観賞など、さまざまな会員によって発案されている。白井氏は、このような会員主導のイベントが時間の経過とともに増加していることを指摘している。イベントへの参加は任意であり、興味のある会員は、掲示板に貼られたイベント情報が記載されたカードに自分の名前を記入することで、参加の意思を示すことができる(図40参照)。白井氏によれば、こうしたイベントのアイデアは、形式的に計画されるものではなく、会員同士の何気ない会話の中から自然に生まれることが多いという。

「あれってすごい頑張って企画してるイベント多分ほぼないんですよ。やろうと思って、企画を立ててみたいなのってあんまなくて、ほとんどが一階でこうコミュニケーションをとっている中で、『今度これやりたいんだよね』とかって。『クリスマスだからなんかクリスマス会したいよね』みたいな。そういう本当ふとした会話から、じゃあやろうよっていう風な感じで生まれてて。そこで会員さん同士がつながるきっかけもすごい増える」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 たとえば、ワイン会は特定の会員複数名によって企画され、現在では月例イベントとして定着している。このイベントも、形式的に計画されたものではなく、主催者の一人は、イベントのアイデアは他の主催者との何気ない会話の中から、会員とともにワインを楽しみたいという思いをきっかけに自然に生まれたと著者に語ってくれた。第一回目のイベントは約6ヶ月前(2025年1月時点)に開催され、その後、徐々に参加者を増やしながら人気を集めていった。2024年11月に実施されたワイン会には、さまざまな年齢層の会員約20名が参加し、各自が自分のワインやおつまみ、食べ物を持ち寄る形式で行われた。なお、持参が難しい場合には、一定額を支払う仕組みが取り入れられている。

図40:イベント情報が掲示される掲示板

参加を希望する会員は、該当するイベント情報が記載されたカードに

自らの名前を記入する。

keijiban.jpg

 さらに、時にはキッチンに余った食材をきっかけに、偶発的にイベントが生まれることもあり、イベント企画が決して形式的なものではないことを示している。たとえば、以前、餃子の皮が大量に余り賞味期限が迫っていたことから、会員たちは餃子を作って一緒に楽しむイベントを開催した。

 このようなイベントは、会員同士が互いに知り合い、関係を築く貴重な機会を提供している。掲示板にイベント情報が掲示されることで、これらのイベントは全会員に広く知られることになり、参加しやすいオープンな場として機能する。その結果、新たな出会いが生まれ、会員同士の関係がより一層深まっていくのである。

 

 まとめると、となりは、会員同士およびスタッフとの社会的交流を促進する機会と環境を提供している。このプロセスの中心には、スタッフによる自己紹介やインフォーマルな挨拶があり、これによって空間への親しみやすさが育まれ、リラックスした雰囲気が形成される。こうした取り組みに加え、となりには、さまざまな社会的交流の機会が存在する。フィールドワークを通じて観察された、食べ物、大きなダイニングテーブル、イベントといった媒介を通じて生まれる交流は、新たな出会いを促進するとともに、既存の関係を深める大事な役割を果たしている。

 これらの交流の機会を通じて、会員が自発的に交流を始めることもあるが、この空間における社会的相互関係においては、スタッフの役割が極めて重要である。スタッフは、会員と直接関わるだけでなく、会員同士のつながりを支援することで、交流の促進に寄与している。スタッフの存在は、となりという空間における親しみやすさと社会的交流を深める鍵となっていると言える。

 交流の機会を促すさまざまな媒介のなかでも、特に食べ物は、すべての会員が共有できるものであり、世代を超えた会話を生み出す大事な役割を果たしている。お裾分けや食事の共有、さらには定期的に提供されるごはんは、会員が自然に交流しやすい環境をつくり出し、これまでの関係性にかかわらず、新たなつながりを生み出している。また、1階に設置された大きなダイニングテーブルは、グループでの共有体験を生み出す場として大切である。このテーブルを囲むことで、会員は複数人で集まり、食事やアクティビティ、何気ない会話を楽しむことができる。物理的な近接性を促すこのテーブルの存在は、会員同士の一体感を強める役割も果たしている。さらに、会員主導のイベントもまた、重要な交流の場として機能している。これらのイベントは、ふとした会話や日常のきっかけから自然に生まれることが多く、さまざまな活動を通じて、会員同士の親密さや関係性が深まっている。

 以上のような交流を通じて、会員は互いにつながりを築き、となりという空間への親しみやすさを一層高めるとともに、社会的な関係性をより深めている。

7.4 コミュニケーション選択性

 となりのシェアスペースでは、社会的交流の機会が豊富に提供されているが、特に重視されているのは、オーナーである加藤優一氏が掲げる「コミュニケーション選択性」というコンセプトである。これは、会員がシェアスペースの中で他者との交流を楽しむこともできれば、他者の存在を感じながらひとりで過ごす時間を選んだり、必要に応じてよりプライベートな空間に身を置いたりすることもできる、という考え方に基づいている。加藤氏と白井氏は、この考え方が、自身たちがイメージする銭湯の社会的な役割と通じていると語っている。

「銭湯の良さって、“程よい距離感”みたいな。番台の人と『お休み』とか『おはよう』とかって挨拶できる距離感とか、変に内輪の人たちがすごいギュって集まってる場所じゃない、じゃないですか。それぞれの時間が流れてるみたいな。それが一人で過ごしてても心地いいみたいな。でも、人とゆるく繋がってるみたいな。そういう距離感がいいなって」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 加藤氏は、自らが考える銭湯の社会的機能を踏まえ、となりを「関係性が心地よい距離で保たれる空間」として構想した。そしてこの考え方を、となりの設立における中核的な要素として位置づけている。

「銭湯はコミュニティではないんです。もちろんコミュニティも醸成されていますが、純粋に疲れたときに心や体を癒す人もいれば、常連さんや番台さんと交流する人もいる。一人でいれる場所でもあり、複数でいれる場所でもあるという“コミュニケーション選択性”が銭湯にはあるのです。小杉湯となりもそういう場所にしたいと思っていました。コロナが流行り始めて最初の緊急事態宣言のとき、公園には人が溢れていました。この様子を見たことは、人の気配や人との繋がりをちゃんと持てる場所がすごく重要だと感じるきっかけになりました。さらに、そのあと、リモートワークが普及したときに、一人暮らしの人は人との接点が減り、逆に同居している人は自分の居場所がなくなった(急にパートナーとの距離が近すぎて上手くいかないなど)と感じる場面も増えたと聞きました。だからこそ、街においても“一人でいれる場所”と“複数でいれる場所”が必要だと感じました。小杉湯となりはその受け皿として、過ごし方や人との関わり方を“選択できる場所”として機能していくとよいなと考えていますね」(野村, 2023)。

 

 となりに隣接する銭湯・小杉湯は、高齢者や中年層、若者、家族連れなど、さまざまな世代や社会的グループが訪れる場所である(加藤, 2023, p.179)。電気湯とは対照的に、小杉湯では社会的交流が空間の中心的な機能とはなっておらず、むしろ個人の時間を大切にする雰囲気が支配的である。実際、小杉湯では、電気湯に比べてひとりで過ごす来訪者の割合が高い傾向が見られる。

 しかし、両者に共通して見られる重要な社会的特徴として挙げられるのが、「コミュニケーションの選択性」である。これは、利用者がそのときの気分や状況に応じて、社会的交流の程度を自ら選択できるという点において共通している。小杉湯の場合、個々人の主な社会的交流は、地域の高齢者の常連客の間で見られる。多くの客はひとりで過ごすことを選ぶが、そうした高齢者と親しい若者や子ども連れの母親との間で交流が生まれることもある。また、受付では「こんばんは」や「おやすみなさい」といったインフォーマルな挨拶が交わされ、スタッフと短時間の会話を楽しむ客も何人か見られる。加藤氏と白井氏の発言に示されるように、銭湯はひとりで過ごすことができる場所でありながら、社会的交流の機会も提供される空間である。このように、両氏が示す「コミュニケーション選択性」や「程よい距離感」は、親密な交流を強要することなく、ひとりでいることを楽しみつつ、社会的な関わりの機会も得られる空間を意味している。

 この考えに基づき、加藤氏と白井氏は、銭湯におけるコミュニケーション選択性の概念をとなりのシェアスペースにも組み込むことで、会員が柔軟に過ごせる社会的環境を実現しようとしている。この目的を達成するうえで、建物の設計は重要な役割を果たしている。となりの建物は三階建てであり、各階には意図的に設計された社会的機能が組み込まれている。以下では、それぞれの階にデザインされた役割と、その空間が実際にどのように利用されているのかについて述べる。

1階:「リビングのような場所」

 1階は「リビングルームのような空間」として設計されており、交流の中心となることが想定されている。出入り口、キッチン、トイレ、大きなダイニングテーブルが設置されているほか、壁沿いには一人用および二人用のテーブルと椅子が配置されている(図41参照)。さらに、フリードリンクステーションや掲示板も設けられている(図42参照)。このフロアは、常に人の動きや交流が生まれる活気ある場として機能し、にぎやかな社会的環境を育んでいる。

「1階にいると、やっぱ何かが起きてるんですよ。誰かが何かをしていて。なんかふらっときただけでも、となりくると顔知ってる誰かに会えて、ここにおすそ分けがあったり、誰かがご飯作っててそれをちょっとくれたりとか」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

図41:1階「リビングのような空間」

出入り口は奥の左側に位置する。

中央にはダイニングテーブルが置かれ、その奥にキッチンが設置されている。

スタッフは常にキッチンカウンターの内側にいる。

右側の壁沿いにはフリードリンクステーションと掲示板が設けられている。

dining room 1st floor.jpg

 フィールドワーク中に観察された社会的交流は、主に、あるいはほぼすべてが1階で行われていた。自己紹介や挨拶、食べ物を介したやりとり、大きなダイニングテーブルでの活動、そして各種イベントなど、これまで述べてきたあらゆる交流がこのフロアで生じている。

 スタッフは常にキッチンカウンターの内側におり、建物の出入り口もこの階にあるため、人の往来が絶えず、挨拶や自己紹介が交わされやすい環境となっている。スタッフとのやりとりも自然に生まれやすい。また、キッチンが1階にあることで、食べ物に関わる交流もこの空間で行われている。たとえば、お裾分けや料理のあまりものはキッチンカウンターに置かれ、飲食も基本的にこのスペース内のみで許可されている。そのため、食を介したやりとりはすべて1階で行われ、このフロアは人々のつながりを育む場としての役割を強く担っている。加えて、イベントもすべて1階で開催される。設置された大きなダイニングテーブルは、グループでの集まりやアクティビティ、共有体験を促進し、となりにおける社会的交流の中核的な場としての1階の重要性を際立たせている。

 これらの主要な機能に加え、1階にはフリードリンクステーションとトイレも設置されており、メンバーやスタッフの行き交いによって自然な交流の機会がさらに生み出されている。白井氏は、この点について、次のように述べている。

「1階にこう、フリードリンクがあるじゃないですか。2階にはないから、必ず1階に降りてきてここを使わなきゃいけないし、トイレも2階にはないから、こう、1階を通らなきゃいけない。だから、誰かとコミュニケーションをとる機会がめっちゃ多いような仕組みがあるんですよ」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 実際にフィールドワーク中も、メンバーがドリンクステーションやトイレを利用する際に、スタッフや他のメンバーとすれ違いざまに会話を交わす様子がたびたび観察された。

 さらに、前節で触れたイベント情報の掲示板を含め、掲示板の配置も交流促進において重要な役割を果たしている。1階に設置された掲示板は、会員やスタッフ同士の会話のきっかけとなる場面がたびたび観察された。たとえば、ある会員がイベント掲示板を見ているときにスタッフが近づき、「何か気になるイベントはありますか?」と声をかけ、そこから会話が始まることがあった。このように、掲示板は空間内の社会的交流を促す大切な要素の一つである。

 要するに、1階は社会的な交流を活発に促す空間としてデザインされており、絶え間ない動きややりとりが生まれることで、にぎやかな社会的環境が形成されている。特に、出入り口、キッチン、フリードリンクステーション、トイレなどの配置が空間に流動性と活気をもたらし、絶え間なく交流が生まれる仕組みを作り出している。 また、大きなダイニングテーブルはグループでの交流を促進し、食べ物や掲示板が会話のきっかけとなって社会的つながりを深めている。さらに、常駐スタッフの存在や各種イベントの開催も交流を後押しする要素である。これらが相互に作用することで、1階はとなりにおける社会的交流の中心的な場となり、会員同士のつながりを育む重要な役割を果たしている 。

図42: 1階に設置されたフリードリンクステーション

その上の壁には、

イベント情報についての掲示板がある。

free drink.jpg

図43:外から見たとなりの1階

1st floor from outside.jpg

2階:「書斎のような場所」

 1階の活気とは対照的に、2階はひとりの時間を確保できる場として機能している。畳の空間には、窓際にカウンター席が設置され、中央にはちゃぶ台、本棚も配置されている。このフロアでは、主に会員がひとりで作業や勉強に取り組んだり、リラックスしたり、時には畳の上で横になって休む姿も見られた。

 1階とは異なり、この空間には社会的な交流を積極的に促す仕組みはなく、そのため会員同士の交流は比較的少ない。特に人気のある窓際のカウンター席では、お互いに向き合わず横並びに座ることで、作業に集中したり個人的な時間を楽しむ場として利用されている(図44参照)。

図44「書斎のような場所」

a study room-like space.jpg

 しかし、2階はひとりの時間を確保できるよう設計されている一方で、建物全体で行われている活動を感じ取れる構造になっており、会員が孤立感を抱くことなく他者の存在を意識できるよう工夫されている。白井氏は、1階と2階の間にドアがなく、さらに天井も張られていないことを指摘しており、そのため1階からの声や音がかすかに2階まで届くという。この設計によって、2階で過ごす会員は下の階の活動を自然に感じ取り、物理的には離れていても他者とのつながりを意識しやすい環境がつくられている。もし2階の会員が交流を望む場合は、活気ある1階に降りて参加することが容易である。このような設計は、「共存」の概念と合致しており、個人が共有空間の中で他者の存在を感じつつ、相互にアクセス可能な状態を保つことを可能にしている(Zhao & Elesh, 2008)。

3階:ベランダ付きの個室

 最後に、3階は会員がプライバシーを確保するための空間として機能している。この部屋は約6畳の広さを有し、トイレ、洗面台、バルコニーが併設されている(図45・図46参照)。会員は事前に予約することで、この部屋を1時間単位で利用できる。1階の黒板には予約スケジュールが掲示され、誰がいつこの部屋を利用するのかが一目でわかるようになっている。

 この部屋は会員の間でも人気が高い。白井氏によると、昼寝を目的に利用する会員もいれば、周囲に聞かれたくないリモート会議に参加する者、運動をする者、あるいは単に休息を取る者もいるという。3階の部屋は施錠が可能で、となりの中で唯一、完全なプライバシーが確保される空間となっている。

third floor.jpg

図45:3階

図46:3階のバルコニー

balcony.jpg

 総括すると、となりの各階はそれぞれ異なる役割を果たすよう丁寧に設計されており、会員はその時々の気分やニーズに応じて、最適なコミュニケーションの形を選択できる柔軟性が提供されている。この点について、加藤氏は次のように述べている。

「会員さんのなかには、ここを働く場として使う人もいれば、くつろぐ場として使う人もいます。また、一人で集中する日もあれば、誰かと雑談する日もあります。小杉湯となりは、その人・その日によって過ごし方や他の人との関わり方を選べる場所です」(野村, 2023)。

 加藤氏の言葉が示すように、会員は仕事や休息など多様な目的でとなりを利用している。となりの柔軟な社会的環境は、利用者それぞれの異なるニーズに対応しており、会員は社会的交流を楽しむだけでなく、他者の存在を感じながら過ごすひとりの時間やプライバシーの確保といった空間の使い方を自由に組み合わせ、そのバランスを自ら調整できる。

 フィールドワークの中で、会員が自分の気分やニーズに合わせて交流スタイルを柔軟に切り替えている様子が繰り返し観察された。たとえば、ある会員は最初2階で一人作業に集中していたが、その後1階へ移動し、スタッフが用意した夜ご飯を楽しみながら他の会員と活発に会話を交わしていた。さらに、大きなダイニングテーブルでのゲームやグループアクティビティにも積極的に参加していた。また別の会員は、3階を運動のために時折利用する一方で、主に1階で他の会員と気軽に会話を楽しんでいると筆者に語ってくれた。

 このように、となりは階層間の移動を通じて、会員が異なる交流スタイルをスムーズに切り替えられる構造を備え、社会的な関わりと個人の時間が自然に調和する環境を提供している。しかしながら、各階にあらかじめデザインされた役割があるものの、空間の使い方が厳密に定められているわけではない、と白井氏は述べている。会員はその時々の気分や状況に応じて、自由に各空間を利用しているのだ。実際、フィールドワークの観察でも、1階は自然と社会的交流が生まれる場である一方で、一人で黙々と作業に集中し、あえて他者と会話を交わさない会員も多く見受けられた。白井氏は、こうした人々は2階で過ごすよりも1階にいることで、他者の存在をより強く感じながら作業したいのではないかと考えている。このような柔軟な空間の使い方は、スタッフの配慮によっても支えられており、静かに過ごしたい会員が快適に感じられるよう、スタッフ自身が行動を意図的に調整している。白井氏はこの点について、次のように説明している。

「すごく賑やかで盛り上がっているときは、あえてスタッフはその輪に入らず、ひとりで作業する会員さんと同じように振る舞うこともあります。ひとりで過ごしたい人も心地よくいられるようにするためです」(白井杏実氏, インタビュー, 2024年11月30日)。

 このような取り組みを通じて、スタッフは1階で他者との交流を楽しみたい人と、ひとりで静かに過ごしたい人の双方が、同じ空間で快適に過ごせる環境を整えている。

 

 会員にとなりの魅力について尋ねると、となりの柔軟な社会的環境に対して好意的な意見が寄せられた。たとえば、ある男性会員は「程よい距離感があるところかな。場面ごとで自分の距離感を選べる。1階と2階でそれを選べる。集中したい時は2階に行って、話したい時は下に行ってみたいな」と語っている。また、ある女性会員は「セミクローズド的な感じがいい。コミュニティっぽいけど、それなりの距離感がある」と述べている。

 これらの声からも明らかなように、となりの空間設計は、社会的交流とひとりの時間のバランスを自然に取ることを可能にし、多様な個人の好みやニーズに応える柔軟性を備えている。その結果、会員同士が互いに快適な距離感を保ちながら過ごせる環境が実現されている。

 最後に、先に述べたような交流の機会を生み出すにあたっても、スタッフは会員のコミュニケーションにおける選択肢や、となり内での心地よい距離感を尊重する工夫を重ねている。その重要なポイントの一つが、「直接的なつながり」ではなく、「場を介した交流」に重点を置く姿勢である。

 これは特に掲示板の活用に顕著に表れている。たとえば、会員向けのイベント情報は掲示板に掲載され、誰かから直接誘われるのではなく、自分の意思で参加を決めることができる仕組みとなっている。また、会員が主催するクラブ活動やクラウドファンディングの情報も掲示板を通じて共有されている(図47参照)。このように、掲示板を媒介とすることで、直接的な誘いを断ることへの心理的負担が軽減されるのである。「場を介した交流」の導入により、会員の自主性が尊重され、それぞれが自分にとって心地よいかたちで社会的交流を行える環境が整えられている。

図47:会員が主催するクラブ活動の情報(右)と、

スタッフとの意見交換(左)が

掲示された掲示板。

クラブ活動への参加は、掲示板に掲載された

QRコードを通じて申し込むことができる。

また、シェアスペースに関する要望や

フィードバックも、

この掲示板を介してスタッフに伝えることが可能。

bulletin.jpg

 結論として、となりの店長である白井氏は、会員にとって自宅以外にも「帰る場所」があると感じられる居場所の形成を目指し、心地よくウェルカムな環境の提供に努めている。フィールドワーク調査の結果、この目標は、空間に対する親しみやすさ、社会的交流の機会、そして会員同士の柔軟な距離感といった要素が融合することで促進されていることが明らかとなった。

 最も基礎的なレベルにおいては、スタッフによる自己紹介やインフォーマルな挨拶といったやり取りが、空間への親近感を醸成し、シェアスペース内での居心地の良さを高める上で重要な役割を果たしている。こうした一見シンプルでありながら意図的に設計されたアプローチを通じて、会員は「顔見知り」としてのつながりを築き、とりわけ新規の会員が再訪したくなるような快適でウェルカムな空間が形成されている。

 さらに、となりは偶発的な食べ物のシェアから会員主催のイベントに至るまで、多様な社会的交流の機会を提供している。これにより、会員同士がつながり、年齢や職業を超えた深い社会的関係が形成されている。こうした社会的関係の構築においては、スタッフの役割が極めて重要である。スタッフは会員同士の結びつきを積極的に促進し、交流を支援している。したがって、交流は単に会員の自主性に依存するだけでなく、スタッフの働きかけによっても支えられているのである。

 そして、「コミュニケーション選択性」という考え方は、社会的交流における柔軟さの重要性を示している。となりの三階建ての空間デザインは、物理的な構造が社会的参加の度合いをどう支えるかをよく表している。具体的には、1階が交流を促進する場、2階はひとりの時間を尊重する場、3階はよりプライベートな時間を過ごす場となっている。こうした柔軟な社会的環境のなかで、会員は自分の好みや気分、その時々のニーズに応じて、社会との関わり方を自由に調整している様子が見られた。とはいえ、各階はそれぞれ明確な役割を持ってデザインされているものの、その利用方法が厳密に決まっているわけではない。むしろ、会員は自分の気分に応じて空間を柔軟に利用している。スタッフはこの社交の柔軟性を支え、時には自身も静かにひとりで作業することで、ひとりの時間を望む会員に寄り添ったり、また一方でグループでの交流を促したりと、すべての会員が快適に過ごせる環境づくりに配慮している。

 このように、「親しみやすさ」、「交流の機会の豊富さ」、「コミュニケーション選択性」といった要素が組み合わさることで、会員にとってとなりは心地よくウェルカムな空間として受け入れられ、「もう一つの帰る場所」として感じられるようになっている。

Tokyo Sento 東京銭湯

bottom of page